7話・最強イルミネーション計画

終業式まで、あと二週間。

そのホームルームで、冬の催しが発表された。

「クラス対抗・冬のイルミネーション。各クラス一作品を作って、中庭に飾ります」

委員の子が、配られたプリントを読み上げた。

「点灯式は、終業式の前夜。投票で最優秀クラスを決めます。電飾は学園から各クラスに同じセットが貸し出されて、追加の装飾は自由。ただし安全基準は守ること」

教室が、ざわっと明るくなった。

冬の中庭は、暗い。日が落ちるのが早くて、練習帰りの道はいつも冷たくて暗い。そこが光で埋まるというだけで、いい話だった。

「うちのクラス、何作る?」

「ツリーは絶対どこかとかぶるよね」

「雪の結晶とか?」

「流れ星は?」

案が飛び交う中で、委員の子が言った。

「で、照明の配線とか点灯の仕組みって、誰か分かる子いる?」

教室が、一瞬だけ静かになった。

それから、視線が、ゆっくりと一つの席に集まった。

最強メンタル計画ちゃんの席だった。

「……私?」

「だって、ほら、いろいろ作ってきたし」

「機械っぽいの、得意でしょ」

「4DXとか作ってたし」

「あれは封印されたけど、技術はすごかったって企業の人が」

最強メンタル計画ちゃんは、少し考えた。

確かに、いろいろ作ってきた。照明も、配線も、点滅の仕組みも、過去の計画のどこかで全部触ったことがある。できるか、できないかで言えば——できる。

ただ、それは、最強メンタルのために作ってきた結果だった。普段の理科の成績は普通だし、家庭科も普通だし、技術の授業の作品は、先週ちょっと先生に首をかしげられたばかりだった。

なんでもできる子だと思われているのは、少し違う。

でも。

「クラスの照明係、お願いできない?」

委員の子が、まっすぐこちらを見て言った。

クラスのため。みんなで作る、冬の催し。今回は、自分の計画ですらない。困りごとでもない。ただの、楽しいこと。

楽しいことの係に、選ばれた。

最強メンタル計画ちゃんの耳が、ぴこ、と立った。

「……やる」

教室に、ぱちぱちと軽い拍手が起きた。

窓際の席で、赤ペン先生だけが、拍手をしながら、遠くを見る目をしていた。


その夜、寮の部屋で、作戦会議が開かれた。

「いい? 今回は、いつも以上に、ちゃんとやるからね」

赤ペン先生が、ノートを机の真ん中に置いて言った。

「ちゃんと、やる」

「クラスの催しだから。事故ったら、クラス全員に迷惑がかかるから」

「分かってる」

最強メンタル計画ちゃんは、こくりと頷いた。

その顔は、いつになく真剣だった。自分のための計画なら、失敗しても自分が封印されるだけ(物が、だが)で済む。でも今回は、クラスの作品だった。みんなが楽しみにしている点灯式だった。

「確認項目、先に全部決めよう。スピカ要素は」

「ゼロ。映像、なし。音声、なし。香り、なし。形、抽象。文字、なし」

「色は」

「白と、青」

赤ペン先生のペンが、止まった。

「青」

「冬の色。雪と、夜空の色」

「……その青、どこから来てるの」

いつもの確認だった。水色ドリンクの時も、スライムの時も、した確認だった。

最強メンタル計画ちゃんは、少し考えてから答えた。

「空の色。冬の、晴れた日の。あと、雪の影の色。夕方、雪の影は青くなる」

赤ペン先生は、その目をじっと見た。

嘘ではなかった。雪の影は、確かに青い。冬の空も青い。白と青は、冬のイルミネーションとして、世界中で使われる普通の配色だった。

ここで青を禁止するのは、さすがに、世界に対して過剰防衛だった。

「……分かった。白と青。ただし、点灯式の前に、私とたづなさんで最終確認するからね」

「ん」

「全部見せること。配線も、プログラムも、点滅も、全部」

「全部、見せる」


製作は、順調だった。

順調すぎるくらいだった。

クラスの作品テーマは「冬の星空」に決まった。中庭の割り当て区画に、支柱で星空のアーチを作り、白と青の電飾を星のように散らす。デザイン班が形を決め、工作班がアーチを組み、最強メンタル計画ちゃんが配線と点灯の仕組みを担当した。

配線は、美しかった。

工作班の子が、配線の束を見て「売り物みたい」と言った。電源は学園の規格品。電球も規格品。延長コードの取り回しも、防水処理も、固定も、教科書のお手本のようだった。第11部の頃から、配線だけは妙に上達していた。

「明るさは、これくらい」

試験点灯の白い光は、まぶしすぎず、暗すぎず、雪の上にやわらかく散った。

「きれい!」

「星っぽい!」

クラスメイトたちの評判も、よかった。

ここまで、本当に順調だった。

最後に残ったのが、点滅のプログラムだった。

ただ点きっぱなしでは、星空っぽくない。星は、またたく。だから、点滅のリズムを組む。それが照明係の、最後の仕事だった。

夜、寮の部屋で、最強メンタル計画ちゃんは小さな試験用の電飾を前に、リズムを組んでいた。

点く。消える。点く。

機械的な等間隔は、星っぽくなかった。安っぽい看板みたいになった。

ゆっくりにすると、眠かった。

ランダムにすると、落ち着かなかった。

最強メンタル計画ちゃんは、何十通りも試した。

そして、ある組み合わせで、手が止まった。

ふっ、と一拍、全体が暗くなる。

その「ため」のあとに、光が、ぱっ、と跳ねるように戻ってくる。

また、ゆっくり沈む。沈みきる前に、別の一角が、ぱぱっ、と二回またたく。

全体が、呼吸しているみたいだった。

「……きれい」

声が出た。

これだ、と思った。星空が生きてるみたいに見える。沈む「ため」があるから、跳ねる光が嬉しい。これがいちばん、きれい。

最強メンタル計画ちゃんは、そのリズムを保存した。

自分の中の「いちばんきれい」を、そのまま形にした。

それが何のリズムなのか——本人は、最後まで気づかなかった。

この二年間、この子の「きれい」の物差しは、たった一つの体験で、ずっと校正され続けてきた。暗転の「ため」。登場の「跳ね」。沈んで、跳ねて、呼吸する光。

本人の中に蓄積された「きれい」の基準は、もう、それしかなかったのだった。


最終確認は、点灯式の三日前に行われた。

管理室に、設計図と配線図とプログラムの一覧が並んだ。たづなさんと赤ペン先生が、二人がかりで確認した。

「電源、規格内。配線、問題なし。固定方法、問題なし」

「映像要素、なし。音声、なし。香り、なし。文字、なし。形は星とアーチ。問題なし」

「色、白と青。一般的な冬の配色。問題なし」

「点滅プログラムは」

「これ」

試験用の電飾で、点滅が再生された。

ふっ、と沈む。ぱっ、と跳ねる。ゆっくり呼吸する光。

管理室で、三人がそれを見た。

「……きれいですね」

たづなさんが言った。

「きれいだね」

赤ペン先生も言った。

二人とも、それ以上、何も感じなかった。

無理もなかった。試験用の電飾は、手のひらサイズの豆電球が八個。光量は小さく、範囲は机の上だけ。部屋は明るく、二人は立ったまま、書類確認の目で見ていた。

それは、昼の屋内で、八個の豆電球が呼吸しているだけの光景だった。

会場の規模で、夜の中庭で、数百の光が一斉に呼吸したとき、何が起きるか——それを机の上から想像できた者は、いなかった。

単体テストは、全項目、合格だった。

「承認します」

たづなさんは、台帳に「クラス対抗イルミネーション・三組作品:確認済み。問題なし」と書いた。

書いてから、別のページを開いた。

点灯式の、警備計画のページだった。

鍋の一件以来、たづなさんは行事のたびに、これを作るようになっていた。


点灯式・特別警戒計画

一、既知の危険物の隔離確認

・保温封印スライム:冷蔵保管庫、当日は施錠。

・ぽかぽかクリーム:封印済み。中廊下の手すりは清掃済み……ただし中庭へ移設したベンチ・手すり類は、移設前の設置場所を要確認。

・特定管理植物区画:遮光カバー、当日も夜間モードを維持。

・雪像:完全融解済み。終了。

二、複合連想の警戒

・湯気の出る屋台は、点灯エリアから距離を取る。

・音楽の使用は、各クラス申請制。リズムのある音響と照明の同時使用は避ける。

三、当職の配置

・複合発生の可能性があるため、当職は屋内からモニターで監督する。現場指揮は職員二名(交代制・直視時間の管理)。


我ながら、厳重だった。

物は、全部押さえた。湯気も、音も、距離を取った。自分の耐性も、過信しないことにした。

たづなさんは、警備計画を閉じた。

押さえ漏れがあるとすれば、それは「物」ではない何かだった。でも、物ではない何かを台帳に書く方法を、たづなさんはまだ持っていなかった。


点灯式の夜が、来た。

よく晴れて、よく冷えた夜だった。昼間の雪が踏み固められて、中庭は白い床になっていた。

中庭には、各クラスの作品が並んでいた。電飾のツリー。光るトンネル。雪の結晶のオブジェ。流れ星の壁。そして、三組の「冬の星空」のアーチ。

観客は、全校から集まった。練習終わりの子も、寮から出てきた子も、マフラーと手袋で着ぶくれて、白い息を弾ませていた。点灯前の中庭は、まだ暗く、人いきれと期待で、ほんのりあたたかかった。

移設されたベンチと手すりが、観客エリアの縁に並んでいた。古い備品で、もとは校舎の中廊下にあったものだった。

後輩ちゃんは、最前列にいた。三組の区画の、いちばん見える場所。

赤ペン先生は、その横にいた。

フル装備だった。

手袋(クリームの教訓)。耳当て(音の防御)。マフラーを鼻まで(香りの防御)。そして、目深にかぶったニット帽のつばで、視界の上半分を制限していた(視線管理)。今冬の全教訓が、一人の防寒具に集約されていた。

赤ペン先生、すごい防備ですね」

「今日は何かある気がするの」

「確認、全部通ったんですよね?」

「通った。全部通った。だから余計に、何かある気がするの」

二年間の経験則だった。

屋内の管理室では、たづなさんがモニターの前に座っていた。中庭の各所に置かれたカメラの映像が、画面に並んでいる。音声は切ってあった。映像も、いざとなれば一秒で消せるよう、手元にスイッチを置いていた。万全だった。

放送が、流れた。

「お待たせしました。冬のイルミネーション、点灯式を始めます」

中庭の照明が、落ちた。

一瞬の、完全な暗闇。観客のざわめきが、すっと期待の沈黙に変わった。

「カウントダウン!」

全員の声が揃った。

「五! 四! 三! 二! 一——」

点灯。

中庭が、光った。

ツリーが光り、トンネルが光り、雪の結晶が光り、流れ星が流れた。歓声が上がった。白い息が、いっせいに光の中へ立ちのぼった。

そして、三組の「冬の星空」が、呼吸を始めた。

ふっ、と沈む。

ぱっ、と跳ねる。

数百の白と青の光が、夜の中庭で、生き物のように、またたいた。

歓声が、三組のアーチの前で、ひときわ大きくなった。

「すご……!」

「星が生きてるみたい!」

「きれい——」

最初の三十秒は、ただ、きれいだった。

異変は、光の「ため」が、三度目に来たときだった。

ふっ、と、アーチ全体が沈む。

暗くなった一拍に、観客の歓声も、つられて、すっと静かになった。

静寂。期待。白い息。

そして、ぱっ、と光が跳ねた。

その瞬間、観客の中の誰かの頭の中で、何かが、かちりと噛み合った。

暗転。ため。静寂。そして、跳ねる光——

それは、見たことのある呼吸だった。何百回も、画面越しに見た呼吸だった。暗転で息を呑んで、光が戻る瞬間に、あの人が現れる——

「……あ」

誰かが、小さく言った。

「これ……この間……」

「ため、が……」

「来る……」

光は、何も知らずに、呼吸を続けた。

ふっ、と沈む。観客の息が止まる。ぱっ、と跳ねる。誰もいないアーチの下に、全員の頭の中で、同時に、同じ人が登場する。

沈む。止まる。跳ねる。登場する。

呼吸のたびに、登場し続ける。

最前列から、観客が、ゆっくりと雪の上に座り込み始めた。

ある子は、手すりに掴まって耐えようとした。その手すりは、中廊下から移設された、あの手すりだった。清掃はされていた。されていたが、ほんのわずかに、奥のほうに、余韻が残っていた。手のひらに、ふわりとあたたかい何かが届いた。

「手が……あったか……だめ……」

追い打ちだった。その子は、手すりを握ったまま、きれいに沈んだ。

そして——中庭の隅、特定管理植物区画で。

遮光カバーは、夜間モードで閉じていた。光は、ほとんど入らないはずだった。

でも、数百の電飾の光は、雪に反射して、地面を伝って、カバーの布の織り目から、ほんのかすかに、中へ届いた。

かすかな光が、呼吸していた。

ふっ。ぱっ。ふっ。ぱっ。

カバーの中で、三輪の花が、その呼吸を聴いた。

最初は、小さく。

葉が、揺れた。

茎が、リズムを取った。

そして、三輪が、いっせいに、踊り始めた。

光の「ため」で沈み、「跳ね」で回る。完璧に、同期していた。誰も教えていないのに。カバーの中の閉じた世界で、花たちは、人生(花生)最高のステージを始めていた。

その振動は、土に伝わった。

土の中で、七つの芽が——初めて、揺れた。

小さく、小さく、先端だけ。雪像の溶け水を吸って育った七つの緑が、生まれて初めて、リズムというものに触れた。

カバーの外からは、何も見えなかった。

ただ、カバーの布が、内側から、とくとくと、小さく脈打っているだけだった。

その様子を映すカメラの映像を、屋内のたづなさんは見ていた。

モニター越し。音声なし。光量も色も、画面の中の小さな情報に圧縮されている。安全だった。距離と画面が、たづなさんを守った。

たづなさんは、モニターの中で次々に座り込んでいく観客と、脈打つカバーを見て、手元のマイクを取った。

「現場指揮へ。三組区画の電源を切ってください。繰り返します、三組区画の電源を」


現場では、赤ペン先生が、すでに動いていた。

最初の一人が座り込んだ瞬間に、原因を理解していた。

点滅だ。あの点滅、あの「ため」と「跳ね」——確認の時、手のひらの上では、ただの豆電球だったあれが、夜の中庭で数百になると、こうなるのか。

「電源!」

赤ペン先生は、人混みを縫って走った。ニット帽のつばで光の全景を遮り、足元と配線だけを見て走った。フル装備が、完璧に機能していた。

配線は、美しかった。

美しく整理された配線は、緊急時に、どこを切ればいいか一目で分かった。電源ボックスの位置も、スイッチの形も、申請書の図面どおりだった。

赤ペン先生は、スイッチに手をかけた。

一瞬だけ、振り返った。

光の呼吸の中で、観客たちが、幸せそうに雪に沈んでいた。誰も苦しんでいなかった。みんな、いい顔だった。隣では後輩ちゃんが、両手で目を覆い、指の隙間から見ようとして、「見ちゃだめ、でも、きれい……」とぐらぐらしていた。

きれいなのは、本当だった。

それが、いちばんの問題だった。

「ごめんね」

誰にともなく言って、赤ペン先生は、スイッチを切った。

三組の星空が、消えた。

呼吸が、止まった。

中庭には、他のクラスの、普通に点きっぱなしの光だけが残った。ツリーと、トンネルと、雪の結晶と、流れ星。どれも、きれいで、安全で、何も呼吸していなかった。

座り込んだ観客たちは、ゆっくりと、現実に戻ってきた。

誰かが、最後に、小さく言った。

「……ぺんらいと……」

持っていないのに。


被害の集計は、その夜のうちに終わった。

座り込み、四十二名。手すり経由の複合被弾、一名。怪我、ゼロ。全員、三十分以内に自力で回復。

史上最多の被弾者数と、史上最速の鎮圧だった。電気は、スイッチ一つで切れた。今冬の事故の中で、いちばん止めやすかった。クリームは拭いて回り、スライムは冷やして回り、雪像は十日待った。それに比べて、電気は一瞬だった。

「皮肉なんだけどね」

片付けの中庭で、赤ペン先生が言った。

「いちばん大規模で、いちばん止めやすいって」

最強メンタル計画ちゃんは、消えたアーチの下で、配線を確認していた。事故の後も、配線は美しいままだった。

「……クラスのみんなに、迷惑かけた」

「それなんだけど」

赤ペン先生は、少し向こうを指さした。

三組のクラスメイトたちが、集まって、こっちを見ていた。

怒っている顔では、なかった。

「ねえ! 照明係!」

委員の子が、駆け寄ってきた。

「ごめん——」

「すごかったね!!」

最強メンタル計画ちゃんの謝罪は、最初の二文字で上書きされた。

「四十二人だって! 四十二人沈めたんだよ、うちのクラスの作品!」

「歴代の催しで最多らしいよ!」

「他のクラスの子が『ずるい』って言ってた! ずるいって!」

「投票、どうなるんだろうね。沈んだ子はあれ、投票どっちに入るの?」

わいわいと、クラスメイトたちは盛り上がっていた。誰一人、責めていなかった。それどころか、半分くらいは誇らしげだった。

最強メンタル計画ちゃんは、その輪の中で、少しの間、立ち尽くしていた。

それから、小さく聞いた。

「……クラスの、役に立った?」

赤ペン先生は、少し迷った。

迷ってから、答えた。

「立ったよ。立ちすぎた」


処理は、翌日に行われた。

管理室で、たづなさんが、点滅プログラムの記録媒体を受け取った。

「点滅パターンは、台帳預かりとします」

「はい」

「電飾本体と配線は、問題ありません。点滅をやめて、常時点灯に改修すれば、展示の継続を認めます」

「……続けて、いいんですか」

赤ペン先生が、少し驚いて聞いた。

「電飾は規格品で、形は星で、色は白と青です。点滅さえしなければ、どこにも問題はありません。それに」

たづなさんは、窓の外を見た。

「点灯式そのものは、好評でした。怪我人もいません。作品を撤去する理由が、ありません」

三組の星空は、その日の夕方から、常時点灯で復活した。

呼吸しない星空は、普通に、きれいだった。沈む「ため」も、跳ねる「跳ね」もなく、ただ白と青の光が、冬の中庭に静かに散っていた。

練習帰りのウマ娘たちが、その下を通って、寮に帰った。暗かった冬の中庭は、終業式まで、ずっと明るかった。

「……普通に、きれい」

ある夜、最強メンタル計画ちゃんは、アーチの下で立ち止まって、それを見上げた。

隣に、赤ペン先生がいた。マフラーは一人一本、正しく巻かれていた。

「普通にきれいだね」

「点滅してた方が、きれいだった」

「きれいだったね。きれいすぎたんだよ」

「きれいすぎると、だめ」

「この学園ではね」

最強メンタル計画ちゃんは、もう少しだけ、光を見上げていた。

白い息が、光の中を、ゆっくりのぼっていった。

「……来年は」

「来年は?」

「きれいと、きれいすぎるの、間をねらう」

赤ペン先生は、隣で、小さく笑った。

「その調整、世界でいちばん難しいと思うよ」

「練習する」

「何の練習なの、それ」

「最強メンタルの」

どこがどう繋がっているのかは、分からなかった。

でも、本人の中では、ちゃんと繋がっているらしかった。それは、二年間ずっとそうだった。

二人は、星空のアーチをくぐって、寮へ帰った。

中庭の隅では、遮光カバーが、もう脈打っていなかった。

カバーの中で、花たちは、静かに眠っていた。

土の中では、七つの芽が、今日覚えたばかりのリズムを、ゆっくり、ゆっくり、反芻していた。

ふっ。ぱっ。

ふっ。ぱっ。

春は、まだ先だった。


トレセン学園スレ

【伝説】点灯式、中庭が会場になった夜【全員善意】

レス 1〜50
[1]:名無しのウマ娘

点灯式行った子、無事?

[2]:名無しのウマ娘

無事。沈んだけど無事

[3]:名無しのウマ娘

沈んだんかい

[4]:名無しのウマ娘

四十二人沈んだ。私はその一人

[5]:名無しのウマ娘

体験者として何があったか教えて

[6]:名無しのウマ娘

三組の星空イルミの点滅がね、呼吸してたの

[7]:名無しのウマ娘

呼吸

[8]:名無しのウマ娘

ふっ……て沈んで、ぱっ……て跳ねるの。そのたびに、誰もいないアーチの下に、来るの

[9]:名無しのウマ娘

来るな

[10]:名無しのウマ娘

来るんだよ。暗転からの登場を、一晩中、無限に繰り返してるんだよあの点滅

[11]:名無しのウマ娘

しかも今回、本人素材完全にゼロなんでしょ?

[12]:名無しのウマ娘

ゼロ。電球と配線だけ。映像なし、音なし、香りなし、色は白と青

[13]:名無しのウマ娘

何もないのに全員が同じものを見た

[14]:名無しのウマ娘

点滅のリズムだけで、四十二人が同時に同じ人を観た

[15]:名無しのウマ娘

もう材料すらいらなくなったんだよ。リズムだけでいいんだよ

[16]:名無しのウマ娘

概念のスリム化が進んでる

[17]:名無しのウマ娘

進むな

[18]:名無しのウマ娘

手すりに掴まって耐えようとした子が、手すりから追い打ち食らったらしいんだけど

[19]:名無しのウマ娘

あの手すり、中廊下から移設したやつだったんだよ……クリームの……

[20]:名無しのウマ娘

十二月の全部が点灯式に集まってきてるじゃん

[21]:名無しのウマ娘

そうなんだよ。今冬の全部があの夜の中庭にいた

[22]:名無しのウマ娘

ちなみに花壇のカバーが内側から脈打ってたって情報があるんだけど

[23]:名無しのウマ娘

それ私も見た。とくとくしてた

[24]:名無しのウマ娘

中で何してたの

[25]:名無しのウマ娘

考えるな

[26]:名無しのウマ娘

考えたら負け

[27]:名無しのウマ娘

で、誰が止めたの

[28]:名無しのウマ娘

赤ペン先生。フル装備で人混みを突破して、電源を一発で切った

[29]:名無しのウマ娘

フル装備って

[30]:名無しのウマ娘

手袋、耳当て、鼻までマフラー、目深ニット帽。今冬の全教訓を着てた

[31]:名無しのウマ娘

歩く再発防止策

[32]:名無しのウマ娘

赤ペン先生だけが点灯式で何も観てないの、逆にすごい

[33]:名無しのウマ娘

配線が綺麗すぎて、切る場所が一目で分かったらしい

[34]:名無しのウマ娘

本人の几帳面さが本人の事故を最速で止めた

[35]:名無しのウマ娘

自己完結型危機管理

[36]:名無しのウマ娘

たづなさんは?

[37]:名無しのウマ娘

屋内からモニター監督。画面越しだから無事だった

[38]:名無しのウマ娘

鍋の教訓が活きてる

[39]:名無しのウマ娘

全員がちゃんと学習した上で、それでも四十二人沈んだという事実

[40]:名無しのウマ娘

学習が追いつかない速度で新しい抜け道が来る

[41]:名無しのウマ娘

ちなみに作品自体は常時点灯に改修されて続行中。今も中庭で光ってる

[42]:名無しのウマ娘

見てきた。普通にきれいだった

[43]:名無しのウマ娘

呼吸しない星空、安心して見られる

[44]:名無しのウマ娘

最後に誰かが「ぺんらいと……」って言って沈んだらしいんだけど

[45]:名無しのウマ娘

私だが?

[46]:名無しのウマ娘

本人いた

[47]:名無しのウマ娘

持ってないのになんで言ったの

[48]:名無しのウマ娘

手が、勝手に、振りたくなったんだよ……光が呼吸してたから……

[49]:名無しのウマ娘

分かるからやめろ

[50]:名無しのウマ娘

三組、投票どうなったの

レス 51〜100
[51]:名無しのウマ娘

二位だった

[52]:名無しのウマ娘

一位じゃないんだ

[53]:名無しのウマ娘

「沈んでて投票できなかった」って子が四十二人いたから

[54]:名無しのウマ娘

得票を自分で沈めた作品

[55]:名無しのウマ娘

伝説だよもう

[56]:名無しのウマ娘

怪我人ゼロで、全員いい顔で、作品は今もきれいで、でも台帳には載った

[57]:名無しのウマ娘

いつもの締めだ

[58]:名無しのウマ娘

これで今年の冬の計画、七つ目?

[59]:名無しのウマ娘

クリーム、マフラー、スライム、お花セット、鍋、雪像、イルミで七つ

[60]:名無しのウマ娘

七不思議ならぬ七計画

[61]:名無しのウマ娘

来年もあるんだろうな

[62]:名無しのウマ娘

あるよ。冬は毎年来るから

[63]:名無しのウマ娘

そして私たちは毎年見てる

[64]:名無しのウマ娘

見てる


統合板

【中間総括】ここまでの冬の制作物七件——単体はすべて安全だった【全員善意】

レス 1〜50
[1]:名無しの観測者

終業式も終わったので、ここまでの冬のトレセン関連事案を一旦整理する

[2]:名無しの観測者

①ぽかぽかクリーム(触媒型・封印) ②ふわさらマフラー(条件付き運用中) ③あったかスライム(保温封印・冷蔵) ④お花お世話セット(運用中・無事故) ⑤回復鍋(提供方式変更で運用中) ⑥雪像(自然発生型・融解済み) ⑦イルミネーション(常時点灯に改修・展示中)

[3]:名無しの観測者

こうして並べると、封印されたの二件だけなんだな

[4]:名無しの社員

企業側から補足すると、七件すべて、単体・成分・規格の検査では完全に安全。事故はすべて「申請項目の外」で発生している。余韻、複合、対流、点滅リズム、自然融解。どれも事前の検査項目に存在しない

[5]:名無しの研究員

研究側から補足すると、今冬の事例で確定した知見は三つ。(一)連想は物品を媒介して伝播する。(二)複合提示は単体耐性を無効化する。(三)概念は人為なしで自然発生しうる

[6]:名無しの観測者

三つ目が今でも信じられない

[7]:名無しの研究員

雪像の件は観測データが一切ない(直視できた者がいない)ため、論文化は不可能と判断した

[8]:名無しの社員

法務から一言:年明けの商品企画会議に「トレセン事例の応用」を持ち込まないように。今年三回止めた。来年は止めない(訴訟になる前に企画ごと潰す)

[9]:名無しの観測者

法務が一番疲れてる

[10]:名無しの社員

品質保証も疲れてる。「単体安全の合算は安全ではない」が社内標語になった

[11]:名無しの研究員

最後に。学園の管理担当の方が今冬書いた新分類は四つ(触媒型、保温封印、自然発生型、複合警戒)。台帳が進化し続けている

[12]:名無しの観測者

台帳だけが世界の最先端を走ってる

[13]:名無しの社員

あの台帳、いつか学会で発表してほしい

[14]:名無しの研究員

発表したら聴衆が沈む

[15]:名無しの観測者

それもそうか。では一旦ここまで。ただ、冬はまだ折り返しだという事実だけ共有しておく

[16]:名無しの社員

クリスマスと年末年始が残ってるんだよな……

[17]:名無しの研究員

イベントの密度が高い季節が、これから来る。各自、体調と心の管理を

[18]:名無しの観測者

続報があったらまたここで。寝ろ

[19]:名無しの研究員

寝る