幕間・連絡再開と二正面の報告
連絡再開
無人島演習、帰還翌日の朝。
合宿本部のロッカー前。私物のスマホが、段ボール箱から返ってきた。三週間ぶり。画面をつけると、通知が次々と立つ。バッテリーは、まだ半分。
「……ん」
最強メンタル計画ちゃんは、親指で未読を開いた。後輩ちゃんからのメッセージが、一番上にある。件数、多い。演習中は送れなかった分が、溜まっている。
同室の親友が、横で水筒の蓋を閉めながら言った。
「溜まってるねー。送れなかった分、全部、来てる」
「……うん」
「電話、するんでしょ」
「……うん」
最強メンタル計画ちゃんは、ノートを膝に置いた。無人島のページは、まだ書き足していない。書く前に、先に声が聞きたかった。
電話、発信。
久しぶり
画面に、後輩ちゃん。尻尾が、画面の端で振れている。
『先輩! 聞こえますか! 先輩!』
『後輩ちゃん!』
最強メンタル計画ちゃんの耳が、ぴこぴこ揺れた。
『うん! 聞こえる! おかえりなさい、先輩! 無人島、お疲れ様です! 会いたかったです!』
『……うん。帰った』
『元気ですか!? 怪我とか!? ご飯!? 寝れましたか!?』
『……うん。大丈夫』
『良かったです! 私、報告したいことが、いっぱいあります!』
『……うん!』
『プチ学祭で、お化け屋敷のクラス代表ができました! みんな、楽しんでくれました! 出口は、出る場所、です!』
『……うん。出る、場所』
最強メンタル計画ちゃんは、うなずいた。出口は、出る場所。休む場所、ではない。それだけが、画面を越えて届いた。お化け屋敷の中で、出られなくなった子の話は、来ない。嘘は言っていない。きれいに、抜けている。
『それから、V5、相談しました! 作る前に、全部見せました!』
『……全部?』
『企画メモと材料と試作メモと参考資料と報告文! 先輩が書いてくれた、作る前に相談、守りました!』
『……うん。相談した』
『はい! 完成はしていません! 相談だけ、です!』
机が埋まったことは、言われない。たづなさんの目が、少し死んでいたことも。後輩ちゃんの声は、いつも、よい方へ滑る。
『先輩の無人島も、聞かせてください! 砂浜!? 走りましたか!? 楽しかったですか!?』
『……うん。楽しかった』
『楽しかった! 良かったです!』
『……ふわふわ、よかった』
『ふわふわ、ですか!?』
『たんぽぽ。怖くない。ゆっくり』
『可愛いですね! 無人島に、たんぽぽ、あるんですね!』
ある、わけではない。今は、説明しない。綿毛みたいに、ゆっくり流れた。楽しかった。それは、本当だ。班のみんなが、見ていた、あとも、本当だ。口からは、出ていない。
『それから、標! 地図、助かりましたか!?』
『……ん。地図、よかった』
『合流、できたんですね! すごいです!』
『……うん。合流、した』
『帰還塔、って聞いたことあります! 先輩、作ったんですか!?』
『……意図してない』
『意図してないのに、できるんですね! さすがです!』
『……うん?』
褒められているのか、止められているのか、画面の向こうでは区別がつかない。
『ハンバーグは!? 食べましたか!?』
『うん。公式。余計、足さない。強い』
『おいしい——!』
『……うん。今日、そのまま、強い』
『他に、覚えたこととか!? 先輩らしいの!?』
『……山菜。覚えた』
『山菜!?』
『賢さ施設。食べられる。毒。塩、吹くと。覚えた、だけ』
『覚えた、だけ、ですね……! すごいです!』
班の前では、分けて言えた。電話では、ふわふわが先に出た。塔のあと、誰も責めなかったことも、載っていない。
同室の親友が、小声で言った。
「ふわふわ、楽しかった、だけ、届いてるねー」
「……うん」
「塔は?」
「意図してない、って言った」
「帰れない、は?」
「……言わなかった」
続けていいよ
『先輩、私、相談、続けていいですか!?』
最強メンタル計画ちゃんは、画面の向こうの後輩ちゃんを見た。尻尾が、まだ振っている。相談できた。それだけで、前に進んだ。
『たづなさんの、条件、守って。続けて、いいよ』
『……本当ですか!』
『……うん。報告続けて』
『はい! 私、続けます! 方向性、OK、ですね!』
『……ん?』
『わかりました! ありがとうございます、先輩! また、送ります! では、失礼します!』
画面が、切れた。
最強メンタル計画ちゃんは、スマホを膝の上に置いた。耳は、まだ少しぴこぴこしている。
「相談できた。良かった、と、言った」
「方向性OK、は言ってない」
同室の親友が、小さくため息をついた。
「でも、続行許可は出した」
「……うん」
「後輩ちゃん、また机、埋めるかもねー」
「……相談する、から。たぶん」
通知が、また一つ増えた。今日は、読まない。
無人島演習は、終わった。連絡は、戻った。
合宿は、まだ半分も、終わっていない。