7話・6日目、後夜祭と、楽しかったね

最終日の昼

学園祭、最終日だった。

メイド喫茶は、最後の営業日だった。

最終日の客は、半分くらいが知っている顔だった。初日に来た二人組が、また来ていた。「最終日だから」と言っていた。水色ドリンクの三番目の被弾者も来ていた。元気そうだった。

「あの、今日って、水色のドリンクは……」

「ありません」

「ですよね」

「ワッフルは、あります」

「ワッフルください」

ワッフルは、最終日もよく売れた。仕込み班が三回、追加で焼いた。

昼過ぎ、初日に「小さくてかわいい」と言った三人組の上級生が来た。最強メンタル計画ちゃんは一瞬警戒したが、今日の三人組は学習していた。

「このお店、また来年もやってほしいな」

「かわいいし」

「かわいいよね」

「えへへ……」

学習した客には、えへへが出た。

赤ペン先生がカウントを再開した。最終日は九回出た。学園祭の最高記録だった。

閉店時間が来て、「ありがとうございましたー!」の声と一緒に、のれんを下ろした。

教室の片付けをしながら、クラスメイトたちが口々に言った。

「楽しかったー!」

「ドリンクの日が一番すごかった」

「満席(物理)の日ね」

「来年は何やる?」

「もう来年の話してる」

最強メンタル計画ちゃんは、メニューボードの「本日限定・水色グラデーションドリンク」の消し残しを、指でなぞった。二日目に書いて、二日目に終わったメニューだった。

「……人気、出たんだけどな」

「聞こえてるよ」と赤ペン先生が言った。


後夜祭

夜になった。

校庭に火が灯っていた。

出店の名残があちこちにあった。売り切れの貼り紙。畳みかけのテント。どこかのクラスが打ち上げで撮っている集合写真のかけ声。火のまわりでは、誰かがギターを弾いていて、知っている歌をみんなで適当に歌っていた。

三人で、少し離れたところから見ていた。

しばらく、誰も何も言わなかった。

「楽しかった?」と赤ペン先生が聞いた。

「ん」

「いろいろあったね。封印も増えたし」

「増えた」

「増えた、じゃないんだよ。半分くらいあなたのなんだよ」

「……でも楽しかった」

「楽しかったけどね」

後輩ちゃんが二人の横に来た。「先輩! 今年の学園祭、すごかったですね!!」

「すごかった」

「水色ドリンク、回収されちゃいましたね」

「人気は出た」

「そこだけ覚えてるんだ」と赤ペン先生が言った。「回収されたことも覚えておいて」

「でも人気でした! もう一回飲みたいって言ってる子いました!」

「提供禁止」

「それはそうですね」

「スライムも! あのスライム、結局何だったんですかね」

「分からないんだよね、それが」と赤ペン先生が言った。「同じ材料で同じ手順だったのに」

「企業の人たちがすごく悔しそうにしてました!」と後輩ちゃんが言った。「データ、取れなかったみたいですよ」

「測定器を出さなかったからね、あの人。悔しそうだったけど、最後まで出さなかった。えらいと思うよ」

「くやしい方が正直では?」

「えらいとくやしいは両立するんだよ、ああいう仕事では」

「旧V4、回収されちゃいましたね」と後輩ちゃんが言った。

「回収された」

「展示してあったの、少しだけ見ました。……ちゃんと、スピカさんでした」

しばらく、間があった。

「空白は、埋まった」と最強メンタル計画ちゃんが言った。

「……また空白に戻りましたね」と後輩ちゃんが言った。

「戻った」

「……先輩が作ったんですよね」

「……作った」

「すごかったです」

「……ありがとう」

赤ペン先生が火の方を見たまま、何も言わなかった。

「4DXは!」と後輩ちゃんが言った。

「乗らない」と赤ペン先生が言った。

「まだ何も言ってません!」

「言う前に分かるんだよ、もう」

「本当に最後まで乗りませんでしたね」

「私には経験があるの。あれは一度で十分」

「後輩ちゃんも乗らなかったですよね」と最強メンタル計画ちゃんが言った。

「……乗らなくてよかったかもしれません」

「よかったんだよ。会場、全員沈んでたんだから」と赤ペン先生が言った。「しかも回るたびに幸せになる輪ができかけてたんだから。あなたが入ったら、出てこられた自信がない」

「輪……」

「輪。物理で止まったやつ」

「でも少し……」

「だめ」

「はい」

最強メンタル計画ちゃんが、少し遠くを見た。

「すごかった」

「それは聞いた」と赤ペン先生が言った。

「楽しかった」

「それも聞いた」

「ん」


七不思議

「そういえば」と後輩ちゃんが言った。「今年の学園祭七不思議、結局いくつになったんですかね」

「数えない」と赤ペン先生が言った。

「でも気になります! 七つ、超えてましたよね?」

「数えないったら」

「水色ドリンクが一つ。謎のスライムが二つ。旧V4が三つ。4DXが四つ。歴史展示の空白が五つ。赤ペン先生名言集が六つ——」

「数えないで」

「七つ目が……」

「数えないでってば」

「七不思議、七つじゃなくなってますよ?」

「七つ以上あっても七不思議は七不思議なの」

「それは?」

「それが七不思議」

後輩ちゃんが最強メンタル計画ちゃんを見た。

「……そういうもの?」

「七不思議って言葉の方が、定員よりも強い」

「定員という概念はあったんですね!」

「あった」

「超えてしまいましたね」

「超えた」

「今年の学園祭、七不思議的には何不思議でしたか?」

「数えてない」

「えらい」と赤ペン先生が言った。


来年のこと

「来年も同じことになると思います」と後輩ちゃんが言った。

「なるだろうね」と赤ペン先生が言った。

「それ、どうにかなりませんか?」

「二年見てきたけど、どうにもならない」

「なるかもしれない」と最強メンタル計画ちゃんが言った。

「なる方? ならない方?」

「……両方」

「どっちですか」

「……来年は、普通に楽しみたい」

赤ペン先生が、最強メンタル計画ちゃんを見た。

「普通に、ね。普通に、の定義から確認しようか」

「……普通に」

「その返事が一番怖いんだよ。何か作る前に、相談する?」

「ん」

「本当に」

「ん」

「分かった。じゃあ、普通に楽しもう」

「ん」

後輩ちゃんが火の方を向いた。「来年も一緒に出ましょうね!!」

「うん」

「今から楽しみです!!」

赤ペン先生が小さく笑った。

「楽しみにしてていいけど、今年の封印、来年は増えないようにね」

「気をつけます!!」

「気をつける、がキャパシティを超えてた時が怖いんだけど」

「キャパシティはありますよ!!」

「……あった」と最強メンタル計画ちゃんが言った。

「ありましたね!!」

「……なくなった」

「なくなりましたね!!」

「でも、楽しかった」

「楽しかったです!!」

赤ペン先生が天井を見るように、夜空を見上げた。

「来年も、たぶん何かある。でも、楽しかったね」

「楽しかった」

「……作る前に相談」

「ん」

「今の返事、少し遅かった」


夜が深くなった。

ギターの音が止んで、歌っていた声がばらばらと解散していった。火が少しずつ低くなった。

火の番の子たちが、最後の薪を足さずに、燃え尽きるのを待ち始めた。

学園祭が、終わった。


トレセン学園スレ

【学園祭終了】お疲れ様でした【全日振り返り】

レス 1〜50
[1]:名無しのウマ娘

学園祭終わった

[2]:名無しのウマ娘

お疲れ様

[3]:名無しのウマ娘

今年もいろいろあったね

[4]:名無しのウマ娘

いろいろのレベルじゃなかった

[5]:名無しのウマ娘

振り返ると、

[6]:名無しのウマ娘

1日目:メイド喫茶開幕、写真が個人展示化

[7]:名無しのウマ娘

2日目:水色ドリンク事故、満席(物理)、たづなさん台帳更新

[8]:名無しのウマ娘

3日目前半:スライムが謎進化、企業担当者が耐えた

[9]:名無しのウマ娘

3日目後半:歴史展示にV4の空白、夜に動き出す

[10]:名無しのウマ娘

4日目:旧V4完成、長蛇の列、お目覚めスペース誕生、理事長被弾

[11]:名無しのウマ娘

5日目:4DXスーパーデラックス復活、タキオンがやった、満席40名全員幸せ気絶、無限ループ未遂

[12]:名無しのウマ娘

6日目:後夜祭

[13]:名無しのウマ娘

6日目だけ短い

[14]:名無しのウマ娘

後夜祭は静かに終わったから

[15]:名無しのウマ娘

最終日のメイド喫茶、えへへが九回出たらしい

[16]:名無しのウマ娘

最高記録更新

[17]:名無しのウマ娘

お客さんが学習して「かわいい」だけ言うようになったから

[18]:名無しのウマ娘

客側の成長

[19]:名無しのウマ娘

この学園祭で封印台帳に何行増えたんだろう

[20]:名無しのウマ娘

数えるな

[21]:名無しのウマ娘

でも気になる

[22]:名無しのウマ娘

たづなさんが全部知ってる

[23]:名無しのウマ娘

たづなさんに聞けない

[24]:名無しのウマ娘

聞いたらたぶん表情が消える

[25]:名無しのウマ娘

やめよう

[26]:名無しのウマ娘

結局、学園祭七不思議はいくつになったの

[27]:名無しのウマ娘

数えるな

[28]:名無しのウマ娘

七つは超えてた

[29]:名無しのウマ娘

七つ以上あっても七不思議は七不思議なの?

[30]:名無しのウマ娘

それが七不思議

[31]:名無しのウマ娘

今年の学園祭、規模が大きかった気がする

[32]:名無しのウマ娘

旧V4が完成したのは史上初では

[33]:名無しのウマ娘

[34]:名無しのウマ娘

4DXスーパーデラックスが復活したのも

[35]:名無しのウマ娘

復活した

[36]:名無しのウマ娘

気絶の回数記録と「幸福度(目視)」欄が生まれたのも今年

[37]:名無しのウマ娘

来年に引き継がれてしまうのか、あの欄

[38]:名無しのウマ娘

引き継がれそうなのが怖い

[39]:名無しのウマ娘

タキオンが絡んでたの、怖かった

[40]:名無しのウマ娘

理屈が通っていたのが一番怖かった

[41]:名無しのウマ娘

でも封印された

[42]:名無しのウマ娘

たづなさんが「含まれていません」を繰り返してた

[43]:名無しのウマ娘

えらい

[44]:名無しのウマ娘

赤ペン先生も「乗らない」を守り通した

[45]:名無しのウマ娘

えらい

[46]:名無しのウマ娘

赤ペン先生の「そこじゃない」、今年の最多更新だったね

[47]:名無しのウマ娘

名言集がまたリアルタイム更新されそう

[48]:名無しのウマ娘

本人はどうだったんだろう

[49]:名無しのウマ娘

「楽しかった」って言ってたらしい

[50]:名無しのウマ娘

それだけ?

レス 51〜100
[51]:名無しのウマ娘

「いろいろあった」「楽しかった」って

[52]:名無しのウマ娘

本人の要約が一番短い

[53]:名無しのウマ娘

封印も増えた」とも言ってたらしい

[54]:名無しのウマ娘

自覚はあるんだ

[55]:名無しのウマ娘

自覚はある

[56]:名無しのウマ娘

「でも楽しかった」らしい

[57]:名無しのウマ娘

そうか

[58]:名無しのウマ娘

そうか

[59]:名無しのウマ娘

封印は増えた

[60]:名無しのウマ娘

友達と回った学園祭だった

[61]:名無しのウマ娘

来年も同じことになる気がする

[62]:名無しのウマ娘

なる

[63]:名無しのウマ娘

でも楽しかった

[64]:名無しのウマ娘

楽しかった

[65]:名無しのウマ娘

それだけでいい

[66]:名無しのウマ娘

来年も見守る

[67]:名無しのウマ娘

見てる

[68]:名無しのウマ娘

来年は普通に終わると思う?

[69]:名無しのウマ娘

その言葉が一番怖い

[70]:名無しのウマ娘

お疲れ様でした