地方式と、あの頃の良いところ

二人になった午後

交流生が来て、十四日目だった。

午後の練習が早めに終わった日だった。後輩ちゃんはたづなさんに呼ばれて、赤ペン先生は図書室で調べ物があると言って出ていった。

最強メンタル計画ちゃんと交流生が、中庭のベンチに残った。

秋の午後の日差しが、少しだけあたたかかった。遠くでグラウンドを走っているウマ娘の声がした。風が、ゆっくり通りすぎた。

しばらく、二人とも何も言わなかった。

交流生が先に話した。

「……先輩のところ、設備が多いですね」

「そう?」

「……うちのトレセンと比べると、全然違います。練習機材も、部屋も、食堂も」

「地方は、少ないの?」

「……少ないです。でも、みんな工夫してます」

最強メンタル計画ちゃんが少し考えた。「工夫、って」

「……ある材料で、できることを考える、という感じです。ないものをどうにかしようとするより、あるものを組み合わせて使う」


似てる、かも

しばらく、また静かになった。

交流生が、視線をベンチの前の地面に落としながら言った。

「……なんか、先輩と似てるかなって思って」

最強メンタル計画ちゃんが交流生を見た。

「……どのへんが」

「……発想が、先にある感じ。手元のもので、なんとかしようとするところ」

最強メンタル計画ちゃんは少し考えた。

発想が先。手元のものでなんとかしようとする。

「……少し、違うかも」

「え?」

「私は……あるものより先に、思いつく方が先かも」

交流生が顔を上げた。少し考えるような顔をした。

「……どういう意味ですか」

「手元にあるものを見てから発想するんじゃなくて……発想してから、手元のものを探す。あるもので考えるんじゃなくて、考えてからあるものを使う」

交流生がしばらく黙っていた。

「……そっちの方が、怖いですね」

「怖い?」

「……発想が先にあると、止まれないと思うので。私は手元のものがなくなったら止まれるので」

最強メンタル計画ちゃんが、その言葉を少しの間、考えた。

「……止まれないことが、多い、かも」

「……そうですか」

「うん。親友が止めてくれること、多い」

交流生が「……そうなんですか」と言った。

「うん。でも、止めてくれるから、続けられてる」

交流生が、また視線を地面に落とした。少し間があってから、小さく言った。

「……少し、羨ましいです」

「怖いって言ってたのに」

「……怖いのと、羨ましいのは、両方あります。私は発想が先に来ることが、あまりないので。いつも手元から考えるので」

最強メンタル計画ちゃんは、少しの間黙っていた。

「……羨ましいと思ってくれた人、あまりいなかった」

「……そうなんですか」

「うん。でも——」

少し間があった。

「……悪くない、かも」

交流生が、少し笑った。

「……怖いのは、止まれないという意味だけです。先輩自身が、怖いわけじゃないです」

最強メンタル計画ちゃんが交流生を見た。

「……そう言ってくれて、ありがとう」


地方のトレセン

日差しがゆっくり動いて、ベンチの影が少し長くなった。

「地方のトレセン、どんな感じ?」と最強メンタル計画ちゃんが聞いた。

「……こじんまりしてます。ここの半分くらいの規模で、走るコースも短い。でも」

「でも?」

「……みんな、工夫するのが得意です。ないなら作る、というより、あるものを最大限に使う、という感じで」

「……それは、いい」

「先輩はそう思いますか?」

「うん。ないものを探すより、あるものを見る方が、たぶん早い」

交流生が「……でも先輩は思いついてから探すんですよね」と言った。

「……そう」

「……順番が逆ですね」

「逆かも」

「……でも、着いてる場所は同じかもしれない」

最強メンタル計画ちゃんが、その言葉を聞いた。

着いてる場所は、同じ。

「……そうかも」

少し間があった。

「うちのトレセンの子たちにも、先輩の作ったもの、見せたいなって思います」と交流生が言った。「安全なやつだけですけど」

「……見せていい。役に立つなら」

「……ありがとうございます」

それからまたしばらく、二人とも何も言わなかった。

グラウンドの声が、風に乗ってまた聞こえた。

悪くない午後だった。


トレセン学園スレ

【交流】最強メンタルちゃんと交流生が二人で話してた件【「うん」が多かった】

[1]:名無しのウマ娘

今日、最強メンタルちゃんと交流生が二人でベンチで話してたらしい

[2]:名無しのウマ娘

後輩ちゃんと赤ペン先生は?

[3]:名無しのウマ娘

たづなさんに呼ばれたのと図書室行ってたのとでたまたまいなかったって

[4]:名無しのウマ娘

二人きりか

[5]:名無しのウマ娘

最強メンタルちゃんが「うん」って何回か言ってたって

[6]:名無しのウマ娘

「うん」?

[7]:名無しのウマ娘

普段「ん」なのに「うん」

[8]:名無しのウマ娘

「うん」と「ん」で違うの?

[9]:名無しのウマ娘

違う。「うん」は心が向いてるときに出る

[10]:名無しのウマ娘

観察眼が細かすぎる

[11]:名無しのウマ娘

でも間違ってないと思う

[12]:名無しのウマ娘

後輩ちゃんとは違うアプローチで入れてるな交流生

[13]:名無しのウマ娘

後輩ちゃんは憧れと肯定から入る

[14]:名無しのウマ娘

交流生は「似てる」から入ってる

[15]:名無しのウマ娘

どっちも真っ直ぐなんだけど方向が違う

[16]:名無しのウマ娘

話し終わったあとに最強メンタルちゃんがいい顔してたって

[17]:名無しのウマ娘

いい顔

[18]:名無しのウマ娘

すっきりしたような顔らしい

[19]:名無しのウマ娘

「羨ましい」って言われることあんまりないだろうしな

[20]:名無しのウマ娘

良かった

[21]:名無しのウマ娘

残り一週間か

[22]:名無しのウマ娘

一週間ある

[23]:名無しのウマ娘

「ある」の言い方が怖い

[24]:名無しのウマ娘

でも今日は本当に良い午後だった

[25]:名無しのウマ娘

良い午後だったね