真・最強メンタル計画 始動
── 最初の一ページ ──
机の上に、一冊のノートがある。
使い込まれたノートだった。
一冊目だった頃、その表紙はまだ白かった。
「最強メンタル計画」とだけ書かれた、シンプルな表紙。
今は、見る影もない。
赤文字。
付箋。
訂正線。
「危険」
「封印」
「たづなさんに怒られた」
「理事長も倒れた」
「同室ちゃんに迷惑をかけた」
そんな反省の言葉で、ほとんどのページが埋まっている。
けれど。
最後の一ページだけは、少し違っていた。
そこには、震えた字でこう書かれていた。
*私は、少しだけ成長した。*
*安全確認を覚えた。*
*人に迷惑をかけないことの大切さを覚えた。*
*オーナーさんに、常識を教えてもらった。*
*同室ちゃんには、たくさん助けてもらった。*
*たづなさんには、たくさん怒られた。*
*理事長は、たぶん共犯。*
そして最後に、大きく。
最強メンタル計画、完了。
そう記されていた。
── 完了、と ──
彼女は一冊目のノートを、そっと閉じた。
表紙は擦り切れ、角は丸まり、背表紙は少し歪んでいる。
長い旅だった。
失敗ばかりだった。
でも、無駄ではなかった。
「私……前より、少し強くなれた気がする」
その声は、穏やかだった。
まるで一つの青春が終わったかのように。
夕焼けが窓から差し込み、机の上のノートを赤く照らす。
彼女は深く息を吐いた。
そして。
椅子の背もたれにかけていた、なんちゃって白衣を羽織った。
「だから」
引き出しを開ける。
そこには、新品のノートがあった。
まだ一文字も書かれていない、真っ白なノート。
彼女はそれを机に置き、表紙を開いた。
ペンを握る。
目が輝く。
「今なら、もっと先に行ける気がする!」
勢いよく、最初のページに文字が走る。
真・最強メンタル計画
その瞬間。
部屋の空気が変わった。
── 共存という思想 ──
「前の私は、ただスピカさんの破壊力に耐えようとしていた」
さらさらとペンが進む。
「でも、それは間違いだった」
「耐えるだけじゃだめ」
彼女は真剣な顔で続けた。
「共存するんだ」
その言葉だけなら、少し成長したように聞こえた。
本当に聞こえた。
だが、次の行で全てが台無しになった。
目標:スピカさんの尊さを日常環境に安全に溶け込ませ、常時メンタル強化状態を維持する。
彼女は満面の笑みを浮かべた。
「これなら……危険物じゃない!」
危険物だった。
まだ形になっていないだけで、思想がすでに危険物だった。
彼女はノートに番号を振る。
真V1:生活環境型メンタルケア
「今までは単発の刺激が強すぎた。だから倒れた」
うんうん、と自分で頷く。
「なら、弱い刺激を生活の中に分散させればいい」
朝。昼。夜。
勉強中。トレーニング後。就寝前。
スピカさんの声、姿、香り、言葉、ライブの記憶。
それらを極めて薄く、自然に、日常へ配置する。
「刺激じゃなくて、環境」
ペン先が止まる。
彼女は目を閉じた。
そして、何かを悟ったように呟く。
「つまり……スピカさん空間」
── 本能が告げていた ──
その瞬間。
部屋の扉の外を通りかかった同室の子が、ぴたりと足を止めた。
理由はない。
声が聞こえたわけでもない。
ただ、本能が告げていた。
今、何かが再始動した、と。
「……まさか」
同室の子は、ゆっくり扉の方を見る。
中からは、楽しそうなペンの音が聞こえる。
さらさら。
さらさら。
さらさら。
「いや……終わったはずだよね?」
終わったはずだった。
最強メンタル計画は、完了したはずだった。
一冊目のノートも埋まった。
本人も成長した。
反省もした。
バイトも頑張っている。
少しずつ常識も覚えている。
だから、大丈夫。
そう思いたかった。
中から、彼女の明るい声が聞こえた。
「真V1、まずは枕元からかな!」
同室の子は、無言で天井を見上げた。
「終わってなかった……」
その声は、とても静かだった。
そして、どこか諦めていた。
── 計画書 ──
部屋の中では、彼女が新品のノートに夢中で書き続けている。
かつてのノートが赤文字だらけなら。
今度のノートは、最初から妙に整っていた。
計画表。
安全基準。
刺激濃度。
救助手順。
同室ちゃんへの報告欄。
たづなさんへの提出用要約。
バイト先オーナーさんに相談すること。
そこだけ見れば、本当に成長していた。
成長していたのだ。
ただし。
根本の発想だけは、何一つ治っていなかった。
彼女は笑う。
「よし……今度こそ、安全で、健全で、誰にも迷惑をかけない最強メンタルを……!」
ペンが止まる。
最後に、大きく書かれる。
真V1実験開始予定:明日
廊下の外で、同室の子が小さく呟いた。
「……たづなさんに、先に連絡しよう」
真・最強メンタル計画。
始動である。
掲示板:【速報】最強メンタル計画、また始まる気配【新ノート確認】
1:名無しのウマ娘
嫌な予感がする
2:名無しのウマ娘
やめろ
3:名無しのウマ娘
その流れを始めるな
4:名無しのウマ娘
で、今回は何なの
5:名無しのウマ娘
なお情報源は同室ちゃん
6:名無しのウマ娘
信頼性SSSSS
7:名無しのウマ娘
終わったんじゃなかったの!?
8:名無しのウマ娘
一応ノート完結したらしいぞ
9:名無しのウマ娘
完結(次章開始)
10:名無しのウマ娘
漫画でよく見るやつやめろ
11:名無しのウマ娘
最後のページかなり感動系だったらしい
12:名無しのウマ娘
「私は少し成長した」って書いてあったとか
13:名無しのウマ娘
実際成長はしてるんだよな……
14:名無しのウマ娘
・人に迷惑をかけない
・安全確認
・事前相談
・バイト頑張る
・救助手順整備
この辺はかなり改善してる
15:名無しのウマ娘
なお方向性
16:名無しのウマ娘
根本がスピカ特効すぎる
17:名無しのウマ娘
同室ちゃん「空気でわかった」
↑これ怖すぎる
18:名無しのウマ娘
何も見てないのに本能で察知したらしい
19:名無しのウマ娘
もう災害探知なんよ
20:名無しのウマ娘
実際V1〜V7全部近距離で浴びてるからな……
21:名無しのウマ娘
あの子、一番メンタル強い説
22:名無しのウマ娘
今回やばいのがさ
「安全基準」
「刺激濃度」
「救助手順」
「提出用要約」
を作ってることなんだよ
23:名無しのウマ娘
ちゃんと成長してる……
24:名無しのウマ娘
いや成長方向!!!
25:名無しのウマ娘
以前:勢いで爆発
現在:計画的に爆発
26:名無しのウマ娘
技術者としては進歩してる
27:名無しのウマ娘
やめろその評価
28:名無しのウマ娘
「環境化」ってどういう思想?
29:名無しのウマ娘
「耐える」のではなく「共存」を目指すらしい
30:名無しのウマ娘
思想が宗教一歩手前
31:名無しのウマ娘
しかも本人はかなり真面目
32:名無しのウマ娘
一番危ないタイプ
33:名無しのウマ娘
理事長、提出された計画書を見て目を輝かせた模様
34:名無しのウマ娘
ダメだこの学園トップ
35:名無しのウマ娘
たづなさん胃薬追加案件
36:名無しのウマ娘
ちなみに新しいノートのタイトル判明した
37:名無しのウマ娘
なに
38:名無しのウマ娘
「真・最強メンタル計画」
39:名無しのウマ娘
「真」が付くとだいたい悪化するんだよ!!!
40:名無しのウマ娘
命名センスはある
41:名無しのウマ娘
そこじゃない
42:名無しのウマ娘
【悲報】真V1、開始予定「明日」
43:名無しのウマ娘
はやいはやいはやい
44:名無しのウマ娘
改善点洗い出し終わって即次行く研究者気質やめろ
45:名無しのウマ娘
正直嫌いになれない
46:名無しのウマ娘
わかる
47:名無しのウマ娘
迷惑かけまくってるのに、不思議と応援したくなる
48:名無しのウマ娘
本人なりに真面目なんだよ
49:名無しのウマ娘
方向はズレてるけど善意100%
50:名無しのウマ娘
同室ちゃんがんばって
51:名無しのウマ娘
たづなさんもがんばって
52:名無しのウマ娘
理事長は触るな