善意100%の連鎖、始まる

四人で話していた

十七日目の午後。

四人で談話室にいた。

話していたのは、地方トレセンでの工夫の話だった。交流生が「うちではこういうものを使います」と言い、後輩ちゃんが「それって先輩の作ったのと近くないですか?!」と返し、最強メンタル計画ちゃんが「……少し、似てる」と言い、赤ペン先生がそれを聞きながらノートの修正をしていた。

良い時間だった。特に危ない話ではなかった。

赤ペン先生は時計を見た。

「ごめん、そろそろトレーニングの時間なんだけど」

「行ってきてください!」と後輩ちゃんが言った。

「うん。大きい話になりそうだったら声かけてね」

「大きい話って?」と後輩ちゃんが聞いた。

「……分かったら声かけて」

そう言い残して、談話室を出た。

廊下を歩きながら、少し考えた。今日の会話の温度感は穏やかだった。三人とも笑っていた。何かが始まる前の顔ではなかった。

大丈夫だろう、と思った。


三人になった

赤ペン先生がいなくなって、少し経った。

話は続いていた。地方トレセンの工夫の話から、少しずつ旧V5の話に戻ってきていた。後輩ちゃんが「設備がなくてもできるって、先輩の旧V5の話と繋がりませんか?」と言ったのがきっかけだった。

交流生が、少し考えながら言った。

「……もし、もっと速く広がれば……もっとみんなに届きますよね」

最強メンタル計画ちゃんの目が、少し遠くなった。

「……速く、広がる」

「……材料を少し変えたら、できそうな気がして……」

「……でも薄まるから」

「……薄まりますよね」

「……薄まれば、大丈夫」

後輩ちゃんが「できますよね、先輩なら!」と言った。

三人とも、悪気はゼロだった。

交流生はみんなに届けたいと思っていた。後輩ちゃんは先輩を信頼していた。最強メンタル計画ちゃんは薄まれば安全だと思っていた。

善意100%の連鎖は、もう始まっていた。


間に合わなかった

赤ペン先生がトレーニングを終えて談話室に戻ったのは、一時間後だった。

扉を開けると、最強メンタル計画ちゃんがノートに何かを書いていた。後輩ちゃんが隣でそれをのぞき込んでいた。交流生が少し離れたところで、興味深そうに聞いていた。

「……何してる」

「改良案です!」と後輩ちゃんが元気よく言った。

赤ペン先生が最強メンタル計画ちゃんのノートを見た。

旧V5の改良案が、びっしり書いてあった。

「……ちょっと待って——」

「拡散速度を上げて、薄めれば安全なんです!」

間に合わなかった。


試験

三日後。

改良版が完成した。

試験は、念のため広い教室で行うことにした。安全のために、窓を全部開けた。換気のために。

広い教室に、三人が入った。

「準備いいですか?」と後輩ちゃんが言った。

「いい」と最強メンタル計画ちゃんが言った。

「……はい」と交流生が言った。

試験が始まった。

薄まった濃度が、教室いっぱいにゆっくり広がった。

後輩ちゃんが「……あ、なんか……いい……」と言いながら、その場にゆっくり座り込んだ。

交流生が「……あ……」と言って、壁に寄りかかった。幸せそうな顔をしていた。

最強メンタル計画ちゃんは、少し長く立っていた。

それから「……みんなに、届いた」と幸せそうな顔で小さく言って、その場にゆっくり座った。

本人も吸っていた。


廊下を通りかかったウマ娘が、教室の前で立ち止まった。

「……なんか……しあわせ……」

そのまま廊下に、ゆっくり座った。

グラウンドを走っていたウマ娘が、窓の近くに差し掛かったとき、足が止まった。

「……なんか……いい……」

芝生の上に、横になった。

窓を開けたから、外まで届いた。薄まったから、広い範囲に届いた。換気が、拡散装置になった。


たづなさんに持っていく

全員が起き上がってから、たづなさんのところへ行った。

赤ペン先生が横についていた。

最強メンタル計画ちゃんが改良版を差し出した。たづなさんが受け取った。少し見た。

しばらく、静かだった。

「……よくできています」

「ありがとうございます」

「金庫に入れます」

「……封印

封印です」

最強メンタル計画ちゃんが少し間を置いた。

「……みんなに届いたのに」

「みんなに届いたから、封印です」

たづなさんが、穏やかな顔でそう言った。

後輩ちゃんが「先輩、すごいです……!」と言った。

「褒めないで」と赤ペン先生が言った。

「……すみません」と交流生が言った。

最強メンタル計画ちゃんが、交流生の方を向いた。

「……いいところに気がついてくれて、ありがとう」

「……え」

「……あなたが見つけてくれなかったら、気づかなかった。だから、ありがとう」

交流生の顔が、少し和らいだ。「……はい」と小さく答えた。

最強メンタル計画ちゃんが、続けた。

「……もっと安全に、改良する」

後輩ちゃんが「先輩……!!」と言った。

赤ペン先生は、何も言えなかった。

交流生への言葉としては、正しかった。いいところを見てくれたことへの感謝。それは本当のことだった。

ただ——「もっと安全に改良する」という言葉は、旧V5の話がまだ続くということでもあった。

たづなさんが台帳を開いた。新しい行を書き加えた。

改良版・旧V5。封印

ペンを置いた。

「また相談に来てください」とたづなさんが言った。「次は試験の前に」

「……はい」と最強メンタル計画ちゃんが言った。


トレセン学園スレ

【速報】きたあああああ【旧V5改良版・再封印

[1]:名無しのウマ娘

きた

[2]:名無しのウマ娘

何が

[3]:名無しのウマ娘

旧V5、改良版が出た

[4]:名無しのウマ娘

やっぱり来たか!!!!!!

[5]:名無しのウマ娘

「みんなに届く・機械がいらない」が先週から刺さってたもんな

[6]:名無しのウマ娘

やると思ってたよおおおお!!

[7]:名無しのウマ娘

でも赤ペン先生が付いてたんじゃないの

[8]:名無しのウマ娘

トレーニングで中座した

[9]:名無しのウマ娘

その隙に!!!

[10]:名無しのウマ娘

赤ペン先生がいない間を毎回ちゃんと狙ってくる

[11]:名無しのウマ娘

狙ってないけど結果的にそうなってる

[12]:名無しのウマ娘

それが一番怖い

[13]:名無しのウマ娘

経緯教えて

[14]:名無しのウマ娘

地方の子が「速く広がればみんなに届く」って言って

[15]:名無しのウマ娘

後輩ちゃんが「できますよね先輩なら!!」って言って

[16]:名無しのウマ娘

先輩が「薄まるから大丈夫」って改良した

[17]:名無しのウマ娘

全員善意100%!!!!

[18]:名無しのウマ娘

全員!!!!!

[19]:名無しのウマ娘

誰も悪いことしてないのにこうなるの本当にこのシリーズらしい

[20]:名無しのウマ娘

試験どうやったの

[21]:名無しのウマ娘

念のため広い教室で窓全開にしてやったって

[22]:名無しのウマ娘

安全のために?

[23]:名無しのウマ娘

換気のために

[24]:名無しのウマ娘

換気のためにwwwww

[25]:名無しのウマ娘

廊下の子と芝生の子まで届いた

[26]:名無しのウマ娘

範囲が広すぎる!!!!

[27]:名無しのウマ娘

窓を開けたから外に届いた

[28]:名無しのウマ娘

換気が拡散装置になった!!!!

[29]:名無しのウマ娘

しかも先輩本人も吸ってたらしい

[30]:名無しのウマ娘

本人!!!!

[31]:名無しのウマ娘

「みんなに届いた」って幸せそうに言ってたって

[32]:名無しのウマ娘

その顔が目に浮かぶ

[33]:名無しのウマ娘

廊下の子も芝生の子も幸せそうだったらしい

[34]:名無しのウマ娘

被害者も全員笑顔なのこのシリーズ以外でないよ

[35]:名無しのウマ娘

たづなさんの反応は

[36]:名無しのウマ娘

「よくできています。金庫に入れます」

[37]:名無しのウマ娘

たづなさん!!!!好き!!!!

[38]:名無しのウマ娘

「みんなに届いたのに」「みんなに届いたから封印です」

[39]:名無しのウマ娘

このやりとり何回目だ

[40]:名無しのウマ娘

論理が正確なのが好き

[41]:名無しのウマ娘

否定しない。よくできてる。でも封印。それが正解

[42]:名無しのウマ娘

封印後に先輩が何か言ったって聞いた

[43]:名無しのウマ娘

「いいところに気がついてくれてありがとう、もっと安全に改良する」って交流生に言ったらしい

[44]:名無しのウマ娘

交流生への言葉としては最高に優しい

[45]:名無しのウマ娘

「もっと安全に改良する」

[46]:名無しのウマ娘

旧V5、終わってない

[47]:名無しのウマ娘

Re:最強メンタル計画の「Re:」、続くやつだった!!!

[48]:名無しのウマ娘

赤ペン先生が何も言えなかったらしい

[49]:名無しのウマ娘

言えないよな。間違ったこと言ってないから

[50]:名無しのウマ娘

それがすごいところだよ最強メンタルちゃん

[51]:名無しのウマ娘

毎回進化して毎回封印

[52]:名無しのウマ娘

これがRe:最強メンタル計画

[53]:名無しのウマ娘

善意100%が三人揃ったら被害規模が変わった

[54]:名無しのウマ娘

でも全員いい顔して終わった

[55]:名無しのウマ娘

なんだかんだ嫌いになれないんだよな最強メンタルちゃん

[56]:名無しのウマ娘

なれないよな

[57]:名無しのウマ娘

善意しかないから

[58]:名無しのウマ娘

だから目が離せない